和歌山県

きのくに線はどうして赤字なのか【紀勢線】

きのくに線は和歌山から紀伊半島を南下し、新宮までを結ぶ約200kmの路線。このブログでは熊野古道を訪れた際や紀伊大島に行ったとき、さらには熊野速玉大社に行ったとき、橋杭岩に行ったときなど様々なシーンで利用してきました。和歌山の南部、いわゆる南紀には本当にすばらしい観光地が多いです。

さて、そんな南紀を走るきのくに線ですが、初めての乗車だと風光明媚な景色に感動するものの、乗れば乗るほど思うのがきのくに線の不便さ。きのくに線が不人気で赤字の理由、そしてどうすればいいのかをユーザとしての視点で考えてみました。

※きのくに線は赤字ですが、廃止になることが決定しているわけではなく、廃止に向けた取り組みも今のところはありません。

きのくに線の現状

きのくに線は和歌山駅から新宮駅までを結ぶ路線。大阪からは特急くろしおが乗り入れています。地方のローカル線ですが、和歌山から新宮までの全区間が電化されています。

現在、日中のくろしおは15本程度あり、白浜までの運転の電車が9本、新宮まで行く特急が6本です。

パンダくろしお
パンダくろしお電車。もう白浜にパンダはいないですけどね

きのくに線は途中の紀伊田辺で大きく分かれます。紀伊田辺までは複線で特急も速いですが、それ以南は単線で、カーブも多く、遅め。紀伊田辺から新宮までの100kmはおよそ2時間かかります。

現状、特急くろしおは阪和間の通勤特急としての性格も大きく、大阪から和歌山の運転も行われてたりしますが、南紀まで乗る人もそれなりにいます。ただ、南紀と言えば、海水浴ということから、夏には南紀の需要が高いものの、冬だと需要は一気に減ってしまいます。

橋杭海岸。南紀の海は関西では断トツの美しさです。

きのくに線の普通は和歌山駅発で紀伊田辺までの運転。それより以南に乗り入れることはなく、紀伊田辺でいったん乗り換えが必要となります。紀伊田辺まではほぼ1時間に一本ある普通も、紀伊田辺を過ぎると2~3時間に1本と極端に本数が減ってしまいます。紀伊田辺から新宮の所要時間はおよそ2時間30分です。

また、普通電車は2両のワンマンで、ロングシート。車窓が美しいのにロングシートだといまいち雰囲気がありません。朝は乗客のほとんどが高校生。一部は、18切符などで紀伊半島を乗り通す利用者。接続が悪い電車や、ラッシュ時間帯を外せば、乗っているのが数人ってこともあります。

きのくに線
夜のきのくに線。田辺までの乗客は数人って感じです。

きのくに線は海岸沿いを行きますが、それと同時に山深いところも走ります。これは南紀の特徴として、海岸ギリギリにまで山が迫っているリアス式海岸が多いから。なので、カーブやトンネルがたくさんあります。駅を出ると、山々を通り、川の河口平野の開けたところにぽつんと集落があって、その集落の真ん中に駅舎がある感じ。さらにまた山へ…と、これの繰り返しで、平野部が海岸沿いにずっと広がっているわけではありません。

よく言えば、海岸と山の車窓が美しいんですが、悪く言うと、本来は電車が通るべきではないような過酷な地形に無理やり電車を通している感じです。

きのくに線
山と海に挟まれたところを行きます。
枯木灘海岸
見老津駅付近を山上から。南紀はこんな感じで山に囲まれたところにぽつんと集落がある感じ。

きのくに線が残念な理由。どうして赤字に?

きのくに線ですが、乗車人数はどんどん減少。2023年には輸送密度が935人まで減少し、収支はJR西日本でワースト2。JR西日本が「大量輸送という鉄道の特性が発揮できる水準」となる2000人を大きく下回ります。赤字額は近畿圏で最大。では、どうしてきのくに線は残念ね状況にあるんでしょうか。

1. 人口減少

そもそも和歌山県は人口減少が激しいですが、中でも最も厳しいのが南紀。南紀は急峻な山が海岸ギリギリまでに迫っているということもあって、広大な土地はなく、また大きな港もなく、さらに高速道路も最近までなかったことから、大きな企業の工場がほぼ全くありません。

新宮の街なみ
新宮の町並み。南紀最大の街でこんな感じ。南紀で唯一イオンがあります。

また、南紀に通学圏の4大や短大がないので、大学進学と同時に南紀を離れることになってしまいます。

上富田町を除いて、人口減少は南紀全体の深刻な問題になっており、これからも減少は続くことが予測されており、2050年には半減の予想のところも。もちろん高齢化の問題もあります。

2. 高速道路の開通

紀伊半島は元々田舎ということもあり、車生活が中心の場所でした。そして、これに拍車をかけたのが高速道路。昔は紀伊田辺までしかなかった高速道路も、今では周参見まで延伸されました。そして、近々紀伊半島を一周するように計画されています。紀伊田辺以降は電車が不便なので、必然的に車で移動するようになります。

道の駅すさみ
現在の高速道路はこの道の駅「すさみ」まで。隣には水族館。

また、現在は白浜まで高速道路があるので、高速バスも便利。大阪駅から白浜駅までのバスの料金は3,600円。電車だと6010円。所要時間はバスが3時間30分、電車が2時間30分。ただ、バスは白浜駅ではなく、観光地の中心となる白良浜へと直接向かうので、乗り換え時間を考えると所要時間はほぼ変わりません。だと、値段が安いバスがかなり有利ですね。

3. 駅から観光地が遠い

南紀には観光地が多いものの、それのどれも駅から少し距離があります。例えば、白良浜。これは白浜駅からおよそ5kmほど離れています。同じく、那智の滝も紀伊勝浦駅からおよそ15km程度離れています(勝浦のバスは混み過ぎて大変!)。串本も潮岬や橋杭岩は結構離れています。

幸い、新宮駅から速玉大社は徒歩圏内ですが、熊野本宮大社はどの駅からも50kmほど離れています。

那智の滝
那智の滝は意外と駅から遠く、バスも結構混雑しています。

なので、観光客だと必然的にバスに乗って移動するんですが、バスも1時間に1本ほどで便がそれほど多くないのも残念。家族旅行だと少し躊躇してしまいます。結局現地での移動を考えて、車で行こうか、となるんですよね。

きのくに線の利用者数を増やすには?

利用者数を増やすにはどうすればいいんでしょうか。日常利用と観光利用の2つの側面から考えてみたいと思います。

1. 需要を踏まえた列車の運行状況の見直し

きのくに線の赤字額を減らすためには、需要に合わせた運転が必須なんでしょう。

まずは、くろしおとの乗り換えを向上させるのが重要な課題。現在、くろしおの多くは紀伊田辺以降の停車駅が多いためか、停車駅では普通列車と接続していないことも多いです。昔のように、くろしおの停車駅を減らし、短距離の普通電車を運行するのはどうでしょう。

なお、くろしおは現在は『トク特チケットレス』が利用可能で、くろしおが指定席特急料金の300~500円とかなり安く利用できるようになりました。特急料金の値引きは期間限定的なものですが、これが通年のものとなるといいんですが。住民の人がこのきっぷの存在をきちんと知っていれば、利便性は結構向上しているとも言えそうです。

オーシャンアロー
昔はオーシャンアローという特急があったんですが、いまでは「くろしお」に。

住民が電車を使う習慣を身に着け、日常的に使いたいと思えるような公共交通機関にするのが先なんでしょうか。

きのくに線
きのくに線も、数年前まではこんな古い普通電車が走っていました。
きのくに線
あら、かわいらしい。

もちろん、観光目的でもかなり使い勝手の向上も重要な課題で、例えばちょうど観光を終えてホテルに向かうための夕方の特急がないことや朝ホテルをチェックアウトした人が乗るような9~10時台の特急がないこともかなり致命的です。

朝は増発、夕方当たりには南紀だけを走る特急なんかを作れば、うれしい気もするのですが。

2. 駅自体を人が集まる場所に

現在、きのくに線の普通電車しか止まらない駅は利用者数減少を理由に、かなり簡素なものに変えられてしまいました。待合室もほぼないに等しく、周囲にコンビニやスーパーはありません。駅周辺に人はほとんどいません。

大辺路を歩いていたときは電車の待ち時間をつぶすために、海岸に座って電車を待っていました。

和深駅
和深駅。周囲は集落ですが、一日平均利用者は2022年で9人。
和深駅
ジオパークの和深海岸がすぐそこです。
江住駅
江住駅。1日平均利用者数が11人。

駅を街の中心に据えるためには、税金を投入して、駅付近の再開発を行うことが必要でしょうか。駅舎の2階にスーパーマーケットなど人が集まる施設を作るなんてどうでしょう。南紀はスーパーが極端に少なく、ほとんどが移動スーパー。駅が集落の中心にあることが多いことや、駅の周りにはそれなりの土地もあるので、結構便利だと思うのですが。

3. 観光利用のための和歌山管内のフリー切符を増やす

南紀を訪れるときに残念なのが、JRのフリーきっぷがほとんどないということ。お得にめぐる方法がないんですよね。

とはいえ、ここ何年かJRは『和歌山満喫わくわくパス』という切符を販売し、南紀のエリアをお得にめぐることができる切符が珍しくできたものの、料金は一旦ICOCAから全額引き落とし、差額分を後日ICOCAポイントで返金するというものでした。最近のJR西日本にはよくある形の割引切符なんですが、そもそもICOCAを持っていない人だとどうするんでしょう。なかなか使い勝手が悪い切符でした。

4. 観光列車を作る

観光需要が高い南紀ですが、観光列車はWEST EXPRESS銀河を除いてありません。昔、きのくにシーサイドという電車がありましたが、なくなってしまいました。

きのくに線は白浜以降、海岸線ぎりぎりのところを行き、なんとも美しい景色が広がります。特に、海が目の前に広がるのは、和深駅や見老津駅、串本駅過ぎてからの橋杭岩。とてもきれいです。過密ダイヤとは程遠いようなところなので、こういったところに観光列車を作ってゆっくり走らせてはどうでしょうか。

くろしおからの車窓
周参見以降の車窓はすごくきれいです。

また、きのくに線沿いには有田みかん、南高梅、クエ、まぐろ、めはりずし、さんま寿司など多くのグルメがたくさんあることが特徴です。近鉄電車を筆頭に観光列車目白押しの関西で、きのくに線の観光列車が少ないのはなんでなんでしょうね。

車内でこういったグルメを提供するような観光列車を作れないんでしょうかね。

5. インバウンド客の呼び込み

実は関西のインバウンド客は熊野古道(特に中辺路)に興味を持っている人も多く、くろしおにも、外国人観光客がたくさん乗っています。ただ、インバウンド客は熊野古道以外の南紀の魅力を知らない人も多く、温泉やマリンアクティビティなど、まだまだ南紀は対外的にアピールできていないものが多いと感じます。

英語表記を増やして現地での受け入れ態勢を整えたりするのも大切なんでしょうか。

個人的にいいと思うのは、外国人向けのダイビングなどマリンスポーツ施設の整備です。南紀のダイビングは関西でもダントツに有名なんですが、日本で外国人がダイビングできるところは全然ないんですよね。今ならニセコのスキーのように、ブランド化できる可能性もある気がしますが。

きのくに線のこれから

これから紀伊半島をつなぐ高速道路が全通します。そうなると、高速バスは現在の白浜から紀伊勝浦や新宮まで運行されることになり、電車よりも速いバスが出現することになるんでしょう。また、南紀の人口減少もどんどん進んでいくんでしょう。

来る南海トラフ地震では南紀は壊滅的な被害は予測されています。災害を視野に入れた鉄道の発展も考える必要があるでしょうか。

それでも、関西に数多あるローカル線の中で、きのくに線だけは本気になれば、きっと多くの人が利用する路線になるとは思うんですよね。

串本駅
南紀は本当にいいところなんですよね

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