安珍と清姫【紀州の昔話】
紀州で最も有名なお話というと、安珍と清姫の伝説でしょうか。若い2人の恋をめぐるお話は今でも歌舞伎や能で盛んに演じられています。
安珍と清姫
昔々、奥州に安珍という名前のお坊さんがいました。安珍はあるとき、熊野詣でを思い立ち、遠く熊野まで歩いて行きました。
そんな安珍が熊野までもうすぐというところに来たとき、日が暮れてきたので和歌山の富田川のほとりにある真砂というところの庄屋にとめてもらうことにしました。庄屋も快く安珍が泊まることを引き受けてくれました。
庄屋では一人娘の若い女の子、清姫がやさしくもてなしてくれました。
その夜、安珍のもとにやってきたのが清姫でした。清姫は安珍に一目惚れしたこと、そしてどうかこの地にとどまって一緒に暮らして欲しいとい懇願します。
しかし、安珍は修行中のお坊さんであるため、恋愛なんかしてはいけません。とりあえず、熊野詣での帰りには必ず寄るからと言ってごまかし、安珍は熊野へ逃げるように旅立ちます。
一方の清姫は安珍が約束してくれたと感激し、安珍の帰りを待つことにしました。
そんな安珍も熊野詣を済ませると清姫のことなどすっかり忘れ、清姫の住んでいるところは通り過ぎ、奥州に向かって歩いて帰りました。そんなことを全く知らない清姫は待ち続け、とうとう熊野詣でから帰る人たちに聞きます。
「安珍というお坊さんを見ませんでしたか。」
「あー、安珍ならもうとっくに帰ったよ」
その知らせを聞いた清姫は全力で安珍を追いかけます。途中からは裸足になって走り、とにかく安珍を見つけようと必死です。
清姫は約束したのに破られたという思いと安珍への憎しみかからでしょうか、体はいつの間にか龍へと変わり、安珍と距離を徐々に詰めていきます。御坊の日高川を渡ったころにはもう安珍がすぐそこにいました。
焦った安珍は日高川のすぐほとりにある道成寺に助けを求めます。そして、安珍に鐘の中に隠れるよう言いました。
しかし清姫は安珍が鐘の中に隠れているのがわかったのでしょうか、龍となった清姫は鐘に巻き付き、火を吐いて鐘ごと安珍を殺してしまいました。
安珍がなくなり、清姫は安珍を殺してしまった罪深さか、それとも自身が見にくい龍となってしまったからでしょうか。そのまま日高川へ身をなげ、死んでしまいました。
この安珍と清姫の話とても有名な話となり、能では「道成寺」、歌舞伎では「京鹿子娘道成寺」となり、現在でも盛んに演じられています。
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